大切なバイクを遠隔地へ、あるいは海外へと運ぶ際、飛行機による輸送は非常に迅速な手段として有効です。しかし、その特殊性から陸送とは異なる準備や手続き、そして注意すべき点が多く存在します。この記事では、バイクを飛行機で輸送する具体的なシーンから、その流れ、メリット・デメリット、さらには安全に輸送するための重要なポイントまでを詳しく解説していきます。
バイクの飛行機輸送はどんなシーンで利用される?
バイクの飛行機輸送は、一般的な陸送や海上輸送に比べて費用が高額になるため、日常的に利用されるものではありません。しかし、時間的制約や地理的条件、あるいはバイクそのものの特性から、航空輸送が最適な選択となるケースがあります。
海外赴任・留学
海外へ長期間赴任する場合や留学する際に、愛用のバイクを現地でも使用したいと考える方は少なくありません。船便では輸送に数週間から数ヶ月かかることもありますが、飛行機であれば数日から1週間程度で到着するため、現地での生活をスムーズにスタートさせたい場合に利用されます。特に、渡航までの時間的余裕がない場合や、新天地での移動手段を早期に確保したい場合に有効です。
海外でのツーリング・レース参加
海外で開催されるバイクレースに参加する場合や、憧れの地でツーリングを楽しみたいという場合にも、飛行機輸送が選ばれることがあります。大切なレース車両を確実に、かつ迅速に現地へ届けたいプロのライダーや、限られた休暇期間を最大限に活用して海外ツーリングを満喫したいと願うライダーにとって、輸送時間の短縮は大きなメリットです。目的地によっては、日本から自走していくことが不可能なため、必然的に飛行機か船での輸送となります。
陸送・海上輸送ができない離島などへの輸送
本土から遠く離れた離島など、トラックによる陸送やフェリーなどの定期的な海上輸送網が整備されていない地域へバイクを送る場合、航空輸送が唯一の、あるいは最も現実的な手段となることがあります。生活物資と同様に、バイクも航空貨物として扱われることで、これらの地域への輸送が可能になります。
緊急性が高い輸送
何らかの理由で、バイクを非常に急いで遠隔地へ届けなければならない状況が発生することもあります。例えば、特別なイベントでの展示や、急な取引で早期の引き渡しが求められる場合など、輸送リードタイムが最優先される場合には、高コストを許容してでも飛行機が利用されることがあります。
高価なバイクや希少車
クラシックバイクや限定生産された希少車、あるいは非常に高価なカスタムバイクなど、その価値や代替の困難さから、輸送中のリスクを極力低減し、迅速かつ安全に届けたいと考えるオーナーもいます。このような場合、輸送時間の短さだけでなく、専門業者による丁寧な梱包や取り扱いを期待して、費用はかさむものの航空輸送を選択することがあります。
バイクの飛行機輸送の流れ
バイクを飛行機で輸送する際の一般的な流れは、専門的な知識と手続きを要するため、通常は航空貨物輸送を専門とする業者や、バイク輸送の経験が豊富なフォワーダーに依頼することになります。
業者の選定・見積
まず、バイクの航空輸送に対応している専門業者や航空貨物フォワーダーを複数選定し、見積もりを依頼します。輸送区間(出発地空港・到着地空港)、バイクのメーカー、車種、排気量、サイズ(全長・全幅・全高)、重量、そして希望する輸送時期などを伝え、料金やサービス内容を比較検討します。梱包作業や通関手続きの代行の有無も確認が必要です。
必要書類の準備
航空輸送、特に国際輸送の場合は、多くの書類準備が不可欠です。国内であれば車検証のコピーや身分証明書などが基本ですが、国際輸送では、車検証(場合によっては輸出抹消仮登録証明書など)、パッキングリスト(梱包明細書)、インボイス(商業送り状)、輸出許可関連書類、保険証券などが必要となります。輸送先の国によって必要書類が異なるため、業者と緊密に連携し、不備なく準備を進めることが重要です。
梱包
バイクは航空輸送の安全基準に基づき、厳重に梱包(クレート梱包)される必要があります。木材や強化段ボールなどで作られた専用の輸送用木箱にバイクを固定し、衝撃や振動から保護します。この梱包作業は専門的な技術を要するため、輸送業者に依頼するのが一般的です。梱包状態が不適切だと、航空会社から搭載を拒否されることもあります。
車両の準備
飛行機に搭載するにあたり、バイク本体にも事前の準備が必要です。最も重要なのは燃料の取り扱いで、ガソリンは基本的に完全に抜き取るか、航空会社が定めるごく少量(空輸可能な量)まで減らす必要があります。また、バッテリーのターミナルを外す、あるいはショートしないように絶縁処理を施すことも求められます。オイル漏れなどがないかも事前に確認します。これらの安全措置は、航空輸送における危険物規則に基づいています。
空港への搬入・通関手続き
梱包と車両の準備が完了したら、バイクを指定された空港の貨物ターミナルへ搬入します。業者が集荷から代行してくれる場合もあります。国際輸送の場合は、ここから輸出通関手続きが始まります。輸出申告書類を税関に提出し、許可を得る必要がありますが、この手続きも通常は依頼したフォワーダーが代行します。
航空輸送
輸出(または国内輸送の)手続きが完了すると、バイクは航空機に搭載され、目的地の空港へと運ばれます。貨物専用機だけでなく、旅客機の貨物スペース(ベリー)を利用することも多くあります。飛行中は気圧や温度の変化がありますが、貨物室は一定の環境に保たれています。
到着地での手続き
バイクが目的地の空港に到着すると、まず貨物ターミナルで荷降ろしされます。国際輸送の場合は、ここから輸入通関手続きが必要となります。現地の税関規則に基づき、関税やその他の税金(付加価値税など)が課される場合は、それらを支払ってから引き取り許可を得ます。国内輸送の場合は、到着後、比較的速やかに引き取ることが可能です。
飛行機輸送のメリット
バイクを飛行機で輸送する最大のメリットは、その輸送スピードです。海上輸送が数週間から数ヶ月単位の時間を要するのに対し、航空輸送は数日から1週間程度で目的地へ届けることが可能です。この迅速性は、時間的制約がある場合に大きなアドバンテージとなります。また、長期間の船旅に比べて、輸送中の揺れや衝撃にさらされる時間が短いという点も挙げられますが、梱包の重要性は変わりません。
飛行機輸送のデメリット
一方で、飛行機輸送の最大のデメリットは費用の高さです。陸送や海上輸送と比較すると、料金は数倍から十数倍以上になることも珍しくありません。航空運賃そのものに加え、燃料サーチャージ、梱包費用、空港利用料、通関手数料などが積み重なります。また、特に国際輸送においては、準備すべき書類が多く手続きが煩雑である点もデメリットと言えるでしょう。ガソリンの抜き取りやバッテリーの取り扱いなど、危険物としての厳格な制約も伴います。
飛行機輸送の際の注意点
バイクの飛行機輸送を依頼する際は、国際航空貨物とバイク輸送の双方に精通した専門業者選びが成功の鍵です。輸送費用が高額になりがちなため、万一の事態に備え、十分な補償内容の貨物保険に必ず加入しましょう。輸出入国の法規制や必要書類は複雑で、不備があると大幅な遅延やトラブルに繋がります。業者と密に連携し、正確な準備を心がけてください。燃料の抜き取りやバッテリーの処理といった危険物対応、頑丈なクレート梱包も航空会社の基準に従い確実に行う必要があります。フライトや通関の遅延も想定し、余裕を持った計画を立てることが肝要です。
まとめ
バイクの飛行機輸送は、費用や手続きの面でハードルが高いものの、時間を最優先したい場合や、他に代替手段がない特殊な状況においては非常に有効な選択肢です。海外への移住や長期滞在、国際的なイベント参加、あるいは離島への輸送など、その活用シーンは多岐にわたります。もし飛行機での輸送を検討する際は、事前の情報収集と準備を徹底し、経験豊富な専門業者に相談しながら進めることが、安全かつスムーズな輸送を実現するための鍵となるでしょう。